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人工電磁波がもたらす健康影響について

要 旨
近年、オール電化、送電線、電気自動車、スマートメーター、携帯電話、WiFi 等、激増する人工電磁波がもたらす環境変化は、EHS(電磁過敏症)患者の発生を増やし続けている。それは、頭痛、耳鳴り、ふらつき、めまい、睡眠障害、血行不良、動悸、関節痛などの症状を呈することが多い。EHS のメカニズムは不明であり、治療方法も確立されておらず、特定の物質で対応しようとする従来の近代西洋医学的なアプローチのみでは限界がある。EHS に関する研究としては、例えば、携帯電話で現在使用される人工マイクロ波(主に 700MHz ~3GHz)は人体に有害であるという研究報告も無害であるという研究報告もある。だが、こうした研究を参考にするには、研究者の意向や研究資金の提供者の存在も考慮に入れなければならない。本稿では、EHS をめぐるこうした諸問題を取り上げ、さらに、その治療方法として、身体の波動性という視点を交えながら統合医療の可能性を考察する。

Ⅰ.はじめに

時代により、健康被害をもたらすストレスの様相は変化する。飢餓や寒冷は太古の昔から人類を悩ませてきたが、昨今、新たに登場した人工電磁波によるストレスも無視しがたい状況を呈し始めている。「朝から体がだるい、いくら寝ても疲れがとれない、頭が重い」――こうした症状は、医薬品の広告のなかでもしばしば取り上げられているが、その原因は、現代社会のライフスタイルによるストレス、として大抵は一括されるだけである。だが、現代社会におけるストレスの具体的要因とは何かを考察する際、検討を避けることのできない課題として、近年急速に増大している人工電磁場環境が浮上する。高圧電線や携帯電話の基地局等から発する人工電磁波による病状は、この数十年間に確かにクローズアップされつつある。然しながら、このような人工電磁波が特定病因として認められることは、ヨーロッパ以外では稀である。これは、大気汚染による四日市喘息や水質汚染による水俣病などが集団発生という形態を示していたのに比して、病状に個人差が大きいことがひとつの要因として挙げられる。例えば、人工電磁波に過度に暴露した結果、ひとたび電磁過敏症を発症すると、通常の都市環境では生活できずに転居を余儀なくされるケースも頻出しているが、現段階では、こうした実情が見逃されがちである。
本稿では、人工電磁波がもたらす健康影響について、主に電磁過敏症をとりあげることにより、電磁場汚染ともいうべき新たな環境汚染への注意喚起の必要性を論じていく。更に、電磁過敏症に対して、統合医療の果たすべき役割を考察する。

Ⅱ.急増する人工電磁波

Devra Davis の報告によると、人工の高周波への暴露に関して、現在米国で指導されているレベルは、100年前に人類が浴びていた自然レベルの一兆倍以上と言われている。携帯電話、スマートフォン、Wi-Fi をはじめとする各種無線 LAN 等から発せられるマイクロ波によって、今や私たちは有無を言わさず取り囲まれている。増設され続ける携帯電話基地局にいたっては、都市部や農村部を問わず、視界に入らない場所を見出すのが困難なほどである。アフリカでも、水道や食料の行き渡らない地域でさえ、携帯基地局の敷設は進められているという。通信機器以外にも、IH ヒーターや電子レンジなどの家電製品、さらには、一般の各家庭に導入されつつあるスマートメーターからの影響も無視できない。オール電化等の電力需要の増大と共に、街中を走る電線も高圧化の一途を辿るばかりである。
果たして、こうした電磁場環境は、私たちにどのような影響を与えるのだろうか。
1952 年 に ド イ ツ の 物 理 学 者、Winfried OttoSchumann が発見したシューマン共振は、雷の放電や太陽風によってもたらされる、元来この地球上に存在する自然な波動である。シューマン共振は、約8Hz から数十 Hz にわたる周波数域にあるというから、私たちの脳波のうちのα波やβ波の周波数域とほぼ一致する。スクイド検出器を用いた John Zimmerman の実験結果によると、セラピストの手から放出される生体磁気の周波数の多くは 7 ~ 8Hz に集中している。シューマン共振が地球の鼓動とも言われ、人間にとっては、親和性のある周波数域である所以であろうか。一方、例えば携帯電話で現在使用される人工マイクロ波の周波数は、主に 700MHz 帯から3GHz 帯に存している。この作用については後述するが、こうした人工電磁波に起因すると思われる体調不良や電磁過敏症がここ何年か増加しており、住民の合意なしに携帯基地局を設置する電話会社に対して、訴訟が行われているのも事実である。だが、大企業の利益を優先する傾向のある政府や総務省や業界やマスコミは、箝口令を敷いているかの如く、報道することも対応を図ることも一切しようとしない。その当然の結果として、人工電磁波問題から遠ざけられている医学界や医療界において、人工電磁波に起因している病態に関し、正確な診療が行われない事例も数多くあると推測される。
私たちの意識が、状況や身体の変化を自覚するとき、実は、状態変化が深刻化している場合が少なくない。特に、病気の原因についての知識や情報が欠如している際には、そうなりがちだ。病因が広域にわたって不可視な場合、それは古来、miasma(ミアズマ)として認識されてきたが、かのヒポクラテスも『古代の医術について』の冒頭で、健康に影響を及ぼす空気や水や土地といった環境因子について言及している。現代医学は、細菌やウイルス等のミクロの病因に関しては厳密な注意を払うが、ジオパシックストレス(特定の地理的条件にともなう異常なエネルギー場のなかで生活することによって受けるストレス)などの病因は看過しやすい。ミアズマとは、Richard Gerber の言説に従えば「疾病を誘導するエネルギー状態」であって、その意味ではまさに、過剰な人工電磁場は、現代のミアズマとも言うべき性質を有している。

Ⅲ.人工電磁波の健康影響に関する研究

世界で初めて電磁波過敏症を患ったのは、NikolaTesla(1856-1943)であるらしい。Tesla は、交流電流や無線の開発者として知られているが、こうした技術の無限の可能性も怖さも共に熟知していた人物である。「私が発明した交流電流(AC)は、人体エネルギーにはあまりにも強く、地球上で最も危険なものとなるだろう。私は解決策を見つけなくてはいけない」という Tesla の言葉は、Nikola Tesla の技術の所有権を有しているテスラ社が保管している資料に見出せる。私たちは、こうした技術の恩恵を受ける一方で、その危険性に対処せねばならない時代に足を踏み入れている。時には、心因性として取り扱われてしまう人工電磁波による健康被害の実態を解明する糸口として、人工電磁波の健康影響に関する研究の歩みを辿ってみる必要がある。ここでは、携帯電話やスマートフォン等の使用に伴うマイクロ波の影響を中心に、人工電磁波の生体への影響に関する研究をまとめてみる。

1)マイクロ波による血液脳関門の破壊 
高周波が脳を包む膜を弛緩させることを、AllanH.Frey は 1970 年代には発 見していた。その後Salford は、ラットを用いた実験で 915 MHz の電磁波の被爆によって脳内にアルブミンが流入することを確認し、さらに、携帯電話の通話モードの電磁波を2時間暴露させると、大脳皮質や海馬に萎縮した神経細胞が認められたことから、Salford は、神経細胞の萎縮と血液脳関門障害との関連性に注目した。こうした実験は、再現性という観点からは未だ不十分な面もあるにしても、マイクロ波によって血液脳関門が障害される可能性が少なくないことを示している。

2)認識力、記憶力、行動への影響 
マイクロ波の暴露によって、集中力や記憶力低下が引き起こされることはしばしば報告されている。なかでも、エリクソン社で携帯電話の開発に携わっていたセガベック氏のケースはよく知られている。セガベック氏は、睡眠障害、一時的記憶喪失などの他、長時間の電磁波被爆により、呼吸困難、動悸亢進、意識不明に陥るとのことである。ヒトを対象にこうした事象を研究することは不可能だが、ラットを用いた研究で、840MHz のマイクロ波を 13 日間連続で 1 日 3 時間浴びせると、運動能力低下や行動の異常が見られたとの報告や 2450MHz のマイクロ波を学習前に 1 時間浴びたラットでは空間把握の学習能力が低下したとの報告がある。低周波の場合も、迷路走行の実験において、50Hz の電磁波に 25 日間、2mT 暴露されたマウスに、認識能力や空間記憶能力の低下が確認されている。台湾では、10 代の若者12000 人を対象に実施した調査がある。結果、携帯電話を過度に使用する若者ほど、不眠や自殺傾向の増加があった。その他、人工電磁波と神経変性疾患の関連性など、カルシュウムイオンや酸化ストレスの観点から検討されはじめている。
3)マイクロ波によるDNAの損傷
1980 年、J. L. Sagripanti らは、マイクロ波の非熱作用によって惹起されるDNA損傷の可能性を報告した。その後、1995 年に Henry Lai と Narendra Singhは、米国政府によって安全とされている基準値内で、携帯電話で使用するのと同等のマイクロ波を 2 時間ラットの脳細胞に照射するだけでDNA損傷が増大することを確認した。さらに 1998 年、J.L. Phillips も、マイクロ波によるDNA損傷を発表した。一方、マイクロ波によるDNA損傷は起こりえないとする研究も多く報告されているが、ここで注意すべきは、Henry Lai や J.L.Phillips のように、DNA損傷を発表した研究者に対して、携帯電話会社から圧力がかかったという事実である。企業からのこうした圧力や干渉は、この問題をめぐって中立性を確保した研究を行うことが如何に難しいかを物語っている。
4)マイクロ波によって惹起される耳鳴りや頭鳴
耳鳴りも頭鳴も、そのメカニズムには不明な面が多いが、携帯電話のマイクロ波によって、耳鳴りや頭鳴が惹き起こされることは、しばしば報告されているる。最初にこの問題を科学的研究の俎上に載せたのは、Allan Frey である。前述のように、Frey は、マイクロ波によって血液脳関門のバリアー機能が破壊されることを証明したひとりであり、マイクロ波信号が脳に音を認識させるという現象(フレイ効果)を報告した先駆者でもあった。その他、Om Gandhi やその研究仲間が電磁波の信号によって惹起される聴覚現象を確認している。しかしながら、マイクロ波によるDNA損傷に関する研究の場合と同じく、Bill Guy や James Lin といった人々が、Frey の研究を否定する立場で発言を行い、論文を発表している。こうした研究に対して、Frey は、「当初から『無害説を確立しようとする人々』は常にこの手のことを行い、科学者や世間の人々をあざむいてきました」と、リサーチや研究方法の不備を指摘している。なお、マイクロ波による頭鳴や耳鳴りとよく似た問題や症状が、低周波によっても生じるので、これに関しては、汐見文隆のリサーチが参考になる。
5)マイクロ波の影響によるその他の症状
上記で取り上げたような人体影響の他にも、頭痛、吐き気、ふらつき、異様な胸の圧迫感等、当事者の言や報告が多数ある。参考までに、2005 年 7 月 22 日、ドイツの医師たちが電磁波(マイクロ波)による健康への悪影響を当時のドイツ首相、エドムンド・ストイバーに報告した文書(代表:Dr. Selsam)では、以下のような症状がグループ別に列挙されている(荻野晃也訳による)。
グループ 1 症状なし
グループ 2 睡眠障害、疲労、うつ傾向
グループ 3 頭痛、不眠、ぼんやり状態、集中力欠如、
もの忘れ、学習困難、言葉のでない状態、
グループ 4 頻繁な感染症、静脈洞炎、リンパ節の腫
れ、関節と手足の痛み、神経や筋肉の痛
み、しびれ又はひりひりする、アレルギー
グループ 5 耳鳴り、聴力低下、聴力の急喪失、めまい、
平衡感覚欠如、視覚障害、眼炎症、目が
乾く
グループ 6 頻拍、断続的高血圧、意気消沈
グループ 7 他の症状(ホルモン障害、甲状腺異常、
寝汗、多排尿、体重増加、吐き気、食欲
不振、鼻血、皮膚病、腫瘍、糖尿病)
6)研究をめぐる問題点
前述の Allan H. Frey の指摘からも窺えるように、この分野の研究は、研究者の中立性が保たれにくい。研究者の立場は、電磁波による被害を直接・間接に経験している者と、軍や企業からの支援や資金提供を得ている者とでは、大きな隔たりがある。こうした立場の相違が、研究結果に如何なる影響を及ぼすかを調査した報告によると、携帯電話業界から資金提供を受けた調査では、「携帯電話使用と健康影響の関連」がみられないと発表したものが 71.9%、みられると発表したのが 28.1% であったのに対し、資金提供を受けない独立した調査では、関連がみられると発表したのが 67%、みられないとしたのが 33%であった。つまり、何らかの結論に至るには、単に研究結果だけでなく、現状では、研究者の立場や資金源も考慮に入れねばならないのである。さらに、電磁波による健康被害は、侵襲的な電磁波の長期暴露によると考えられるので、人体への影響に関する研究の再現性を得ることは、容易ではない。したがって、研究デザインの工夫に加え、動物実験、疫学調査、電磁過敏症に罹患している人達の愁訴等、これらすべてを総合的に検証していく歩みが必要となる。

Ⅳ.電磁過敏症(EHS)をめぐる現状

電磁過敏症患者の多くは、言わば、目に見えない弾丸に射抜かれて苦しんでいるかのような状態にある。人工電磁波は目に見えず、かつ、さほど被曝せずに発症していない人々にとっては、理解し難い訴えや症状であるからだ。携帯電話基地局からの影響も、同じ家族であってさえ、寝室の場所(一階か二階か高層階か)、外出時間の長短、年齢等によって、異なる被害状況をもたらすことになる。従って、家族からも病状を理解されずに悩んでいる患者も大勢いると聞く。
EHS の現状をめぐっては、以下のように論点整理される。
1)症状を誘発する電磁波発生源
電磁過敏症と言っても、その発症の原因となる発生源はさまざまである。Kato&Johanssonらによって、電磁過敏症の発症要因として、携帯電話基地局(37.3%)、コンピューター(20.0%)、家電製品(14.7%)、医療機器(14.7%)、携帯電話(8.0%)、送電線・配電線(6.7%)、IH クッキングヒーター(6.7%)が報告されている。ここで留意すべきは、EHS を発症させる原因と、症状を引き起こす対象とは、必ずしも一致しないという側面である。症状を惹起させる対象には、同じく Kato らの調査において、携帯電話基地局(70.7%)、他人使用携帯電話(64.0%)、コンピューター(62.7%)、送電・配電線(60.0%)、テレビ(56.0%)、本人使用携帯電話(56.0%)、コードレス電話(52.0%)、エアコン(49.3%)、車(40.8%)が報告されている。どちらの場合も、携帯電話基地局が第1位であることから、携帯電話基地局の人体への影響が無視し難いレベルであることが推測される。実際、ドイツでも、携帯電話基地局近在の約 10% の住民が体調不良と基地局の関連性を認識している。
2)発症者の特徴と自覚の有無
さまざまな医療現場で、EHS 患者には女性が多く、その理由としては、女性の方がホルモンの影響を受けやすく、下垂体 - 辺縁系が変動しやすいからと考えられてきた。しかし最近では、30 代の男性にも EHS の発症者が増加しているという。これは、Wi-Fi 等の無線 LANの急速な普及によって、職場、電車内、ホテル、飲食店など、生活のあらゆる場面でマイクロ波に被爆することが激増したためと推察される。EHS 発症のメカニズムは未だ解明されておらず、EHS の疾病としてのアイデンティティに懐疑的な人たちもいるが、EHS らしき症状に悩む人が、電磁場環境の変化に伴い増加しているという現状は否定し難い。

留意すべきは、前掲したような多様な症状が、主として電磁波被爆によって惹起されたものか否かの判別が、第三者には極めて難しいという点である。診断の多くは問診に拠らざるを得ないが、ここで、EHS の自覚がある場合と自覚がない場合では、医療側の対応にも差異が現れる。自覚のある人たちには、次の二つの認知が可能である。まず、自分の症状の誘発因(電磁波被爆)を生じさせる環境を認知できること、及び、自分の症状が誘発因(電磁波被爆)によって発生もしくは増悪するという体験を認知できることである。一方、電磁波被爆によって、同じような症状を体験しながらも、EHS の自覚のない人は、症状の訴えのみに終始してしまう。この二種類の患者群に対して、医療者側も、予め電磁波被爆が病因となり得るという予備知識があるか否かによって、二群に分けられる。つまり、EHS の自覚のある患者とEHS の自覚のない患者、EHS の予備知識のある医療者と EHS の予備知識のない医療者の組み合わせによって、治療内容や対応が以下のように変わってくる。
 ・予備知識のある医療者は、各症状に対して総合的アプローチができ、EHS の自覚のない患者に対して電磁波被爆を減らすことを指導できる。
 ・予備知識のない医療者は、各症状に対して対症療法的なアプローチを行いがちで、EHS の自覚のある患者の愁訴を心因性や思い込みとして取り扱う場合もあり得る。
いずれにしても、頭痛、吐き気、睡眠障害、ふらつき、動悸、胸や腹部の違和感等の EHS による症状は、電磁波被爆がなくても現れるので、明確な診断基準のない現在、医療サイドも患者サイドも試行錯誤の対応をせざるを得ないのが実情である。

Ⅴ.電磁過敏症(EHS)への対策と課題

1979 年の『アメリカン疫学ジャーナル』に掲載された Nancy Wertheimer の論文は、送電線付近に居住すると小児白血病のリスクが 3 倍近くになることを示して、電磁波の危険性に対する警鐘を鳴らした。さらに 1995 年の Sobel 達の論文では、電磁波による被爆量の高い人々はアルツハイマー病に罹患する率が増える可能性が示され、以後、アルツハマー病などの神経変性疾患と電磁波の関係が問題視されるようになった。しかし、低周波による危険性が注目を集め始めても、EHS自体の総数は少なかった。EHS の総数が激増したのは、携帯電話などのマイクロ波による被爆量が急速に増加してからだと言えるだろう。
携帯電話のマイクロ波は果たして有害なのか無害なのか、といった論争が続いているが、こうした二者択一的なアプローチは、問題解決という立場からすればあまり生産的ではない。何故なら、自らの症状の誘発因(電磁波被爆)を生じさせる環境を認知でき、かつ、自らの症状が誘発因(電磁波被爆)によって発生もしくは増悪するという体験を認知できる EHS 患者が多く存在するということは、現行の携帯電話などのマイクロ波は無害ではあり得ないことを示しているからだ。従って、必要なのは、どういう状況下、条件下において有害性がもたらされるかを具体的に調査研究することなのである。その為には、個別の事例に即して、発症状況(例えば、オール電化にしてから体調不良に陥った、住居近くに携帯電話基地局が敷設されてから体調不良に陥った等)、症状、患者個人の体質(素因)、電磁場環境(周波数や強度)などのデータを集積していくことが不可欠である。北條らの報告では、各国の EHS の有病率(電磁波に過敏な人の割合)は 1 〜 10%とのことだが、この数値の多さに比べ、EHS に関する認知度は我が国においては極めて低い状況のままである。患者の訴えの背後に、要因のひとつとして電磁場の影響も推し量れる医療従事者が増えてくることが、EHS の問題解決の第一歩であろう。EHS の我が国における認知度の低さは、報道機関と通信産業界、および行政の姿勢に求められる。こうした機関に正当な対応を促すには、病態解明と治療方法の確立というゴールに向けて、患者、医療者、研究者が、それぞれの問題意識と知見を根気強く発信しつづけていかねばならない。

Ⅵ.統合医療への期待

EHS の発症メカニズムは不明であるが、長時間、大量の電磁波に被爆することで発症するケースが多いことから、生体の電気信号システムに何らかの障害が起きることが、主な原因であると推察される。宮田は、電磁波の細胞への障害が「DNA損傷、酸化、カルシウム代謝」の三つのレベルで引き起こされる可能性を指摘しているが、未だその実態は不明瞭で、EHS の様々な症状を統一的に理解する手掛かりさえないのが現状である。近代西洋医学の真骨頂は、病気は特定の物質に起因すると考えることによって対処しようとする「原因物質の究明―診断―治療」という一連の方法にある。EHS に対しては、未だこうした方法は確立されていないわけだが、一応、EHS に有効な物質として、ビタミン C、ビタミン B 群(B1 ,B2, B6 ,B12)、亜鉛、セレン、ポリフェノール、マグネシウム、カルシウムなどが報告 28)されている。主に、抗酸化作用や対ストレス効果のある物質である。然しながら、現時点では、EHS の多様な症状に対して、特定の物質で対応しようとする従来の近代西洋医学的なアプローチのみでは限界があるといえよう。
17 世紀末に、ホイへンスが光の波動説を、ニュートンが光の粒子説を提唱して以来、論争が続いてきたが、現代では、光は粒子と波動の二重の性質を有することが確認されている。同様に、私たちの身体も、粒子であり且つ波動である、といった視点に立つべき時代に入ってきたのではないだろうか。本稿Ⅱで言及したように、例えば、セラピストの手から放出される磁気エネルギーの波長の多くは、7~8Hz に集中しているとの知見があり、これはシューマン共振の周波数領域と重なっている。また、東洋医学が古来より病理の根本に据えてきた「氣」は、まさに身体の波動性に基づく概念であって、近年注目されはじめている波動医学の先駆的認識であるとも言い得よう。東洋医学や手技療法など、いわゆる EBM の対象となりにくい療法も積極的に活用しようとする統合医療は、EHS の治療にとっては、期待される選択肢である。鍼灸や気功など専門的な代替医療をはじめ、入浴、腹式呼吸、発声や音楽療法等、日常的に対応できるものも取り入れていく姿勢が求められる。他に効果の可能性を見込める療法として、頭蓋 - 仙骨療法等による身体のアラインメントの調整、及び適した波動調整水(正常な生命信号に戻す作用を有する水)の摂取が挙げられる。後者は、私たちの身体の約 3 分の 2 が水分であることを考慮しても、波動調整作用の優れた水の摂取は、EHSのみならず、多くの症状改善にも有効であると推察される。但し、波動調整水の性質の見極めが重要なことは論を俟たない。こうした療法は従来あまり馴染がなく、EBM の観点から批判の的となりやすいが、未来の医学や統合医療にとって極めて示唆に富んでいると思われるアルバート・セント・ジョージ(ビタミン C の発見者)の言葉を参考までここに記しておく。「生命の基質は電磁場と水によって形成される。そして水は(中略)エネルギーを伝える組織を形成する」。

Ⅶ.おわりに

EHS のメカニズムは、現在不明のままである。それは、過剰な人工電磁波に取り囲まれたこの時代に増え続けている以上、一種の公害病でもある。現在では、700MHzと BWA(Broadband Wireless Access;2.5 ~ 3GH z)による周波数帯が増えつつあり、比較的人体への影響が少ないと推測される前者に比して、後者の影響は未知の部分が多い。人工電磁場環境に対して、EHS の自覚のある者は何らかの注意を払えるが、問題なのは、むしろ、EHS の自覚のない人々の間で、頭痛、耳鳴り、ふらつき、めまい、睡眠障害、血行不良、動悸、関節痛などの症状が、過度の人工電磁波(オール電化、送電線、電気自動車、スマートメーター、携帯電話、Wi-Fi 等)が原因で惹起されたり、増悪化したりする場合である。さらに、DNA や神経機能に悪影響が及ぼされる可能性も無視できない。こうした人工電磁波がもたらす事態について、医療関係者のみならず、一般の人々にも知識を広めていくことが、未来の社会にとって不可欠であろう。